だれが「本」を殺すのか

2001年の本であるが13年経た今となっても電子書籍の台頭こそあれ、さほど変わっていないのが現状である。
誰が悪いのかといって挙げられたブックオフや図書館など色々な原因はあるにせよ一番の原因は読者側の
意識というか本に対する優先度と姿勢の変化ではないだろうかと思った。本を取り巻く状況を全方位的に
考えることができたという意味において面白い本であった。

  • 第一章・・・書店 「本屋」のあの魅力は、どこへ消えたのか
  • 第二章・・・流通 読みたい本ほど、なぜ手に入らない?
  • 第三章・・・版元 売れる出版社、売られる出版社
  • 第四章・・・地方出版 「地方」出版社が示す「いくつかの未来図」
  • 第五章・・・編集者 「あの本」を編んでいたのは、だれか
  • 第六章・・・図書館 図書館が「時代」と斬り結ぶ日
  • 第七章・・・書評 そして「書評」も、消費されていく
  • 第八章・・・電子出版 グーテンベルク以来の「新たな波頭」

また、ベストセラーとしか本との接点をもたず、未来の読者につながるとは思えない層が台頭する「読者の死」と、「読む力」のない層しか相手にできない「著者の死」ともいうべき風潮である。さらには、自分が欲しい本を書店で買い求め、それを手元にとって置く従来の読書家タイプにとってかわり、"無料貸本屋"という批判が相次ぐ図書館のヘビーユーザーや、ブックオフなどの新古本屋、マンガ喫茶などを"格安の貸本屋"と見なす人びとのふるまいに象徴される「蔵書の死」の傾向である。

蔵書の死というのは時代の流れとして仕方ないのではないか。団塊の世代以上であれば、
やはり手許に置いておきたいという人が多いのではないかと思う。

ピアノの流通はメーカー主導の下に代理店網が全国に整備され、定価販売がしっかり守られている。坂本はそうした古い体質の業界だからこそ、中古販売のチャンスがある、と考えた。調律師などを通じて集めた中古ピアノ約320台を磨いて新品価格の半値で売りだしたところ、たった二日間で売り切れてしまった。

ブックオフの前はピアノだったとは知らなかった。こうした目の付けどころはさすがである。
現在は「俺の」シリーズで外食産業に参入しているが、また次も新たなビジネスモデルを
構築していくのだろう。

仕入先の95パーセントは当該の店から車で10分以内の一般ユーザです。定価千円の本を一割の百円で買って、定価の半額の500円で売る。これがブックオフの基本です。稀覯本だとか初版本だとかのプレミアムは一切無視します。きれいで、発行されてから時間のたっていない本、これだけが商売の判断基準です。

このシンプルさが強みなんだろう。今では5%くらいでしか買い取ってくれないけど。

「時間消費型の典型的商品である本が、同じ分野から出てきたテレビゲームや携帯電話にあっという間に食われてしまったのは、ある意味で当然だが、同じ本を扱うジャンルにも強力な敵が登場して版元を絶体絶命のピンチに追い込んでいる。かつて大手版元のドル箱だったコミックと文庫はブックオフに食われ、やはり安定的な収入源だった辞書や実用書の類は百円ショップに奪われている。」

13年経つとテレビゲームや携帯電話というところが、ソーシャルゲームスマホと言い換えられるだろう。

私のところにある大手出版社の編集者が原稿依頼にきて、たまたま、拙著の話になった。「あの本はうちの社でもたいへん評判です。編集者仲間みんなで回し読みしています。」これをきいてさすがの私も開いた口がふさがらなかった。編集者だったら本くらい買えよといおうと思ったが、なぜそんなことをいうんですか、と逆ネジをくらわせられそうなのでやめにした。本人は「本」を生んでいるつもりかもしれないが、こういう鈍感な編集者こそ「本」を殺している。

本の著者からすると一番腹が立つのがこの手の発言なのだろう。一般の人ですら嫌なのに、編集者仲間とは。

<ブックオフを悪く言う人は、それが新刊の売り上げを妨げていると言って非難するけれど、しかし、ブックオフで本を買う人は、少なくとも「買う」という行動をして、自分の金を出して本を手にしている人たちである。しかし、図書館で借りて読んで、読んだらさっさと返すという人は、一銭の金も出さず、中身だけを「タダ読み」している人々である。そのどちらが、本当に出版社と著作者に対して、狡いのであるか、論理的に自明であろう>

しかも、ブックオフより図書館の方が品揃えが良い。2週間で読まないといけないという点と
返却しにいく手間が克服できればこれ以上の強敵はいないと思われる。

ここで例にあげられているのは、乙武洋匡の「五体不満足」と大平光代の「だから、あなたも生き抜いて」、それに柳美里の「命」である。某区には公共の図書館が十館あり、十館合計でそれぞれ80冊、51冊、40冊購入したという。しかしこれらの本は一冊について、30回あまり貸しだされているから、ベストセラー本の貸出件数は全国で延べ数十万件にも及ぶだろう、と林は推測している。林はこれにつづけて、そもそもベストセラー本のごときを図書館で借りて読もうというような人は、決して本当の読書家ではない、という。

いつまで待っても良いという人が多いのだろうから、5冊くらいしか買わずに5年10年待たせておけばよいのに。
たまに人気作家の新刊本を借りようかとしてみるとありえないほどの予約件数が入っていて唖然とする。
どんな形が理想であるかとは言えないけれど、その本に対する想いなどにより色々な読み方が
あってもよいのではないかと考える。

  • 本屋で購入・・・好きな作家、手元に置いておきたい本
  • 電子書籍で購入・・・上記だけど大きい、重い、新たに買い始めた作家
  • ブックオフで購入・・・1回読めばよい、たまたまあった、105円だった
  • 図書館で借りる・・・1回読めばよい、高い、入手しにくい


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