スナイパー 現代戦争の鍵を握る者たち

スナイパーと聞いて思い浮かぶのは「山猫は眠らない」のような映画に出てくる身動き一つせず、
一撃必殺の弾丸をターゲットに撃ち込むような兵士を想像してしまう。本書ではスナイパー十数人
から現代戦におけるスナイパーの役割やその経験について生の声がまとめられている。精神論に
なることもなく、自らの体験を淡々と語るだけの内容にかえってリアルさが感じられた。

今日の狙撃手に求められる能力としては、発見されずに移動して狙撃場所に到達する能力、ひとりまたはふたりからなる極小の単位で独自に作戦を実行する能力、身を危険にさらさず数時間から数日間も待機する能力、特定の目標を狙って倒す能力、800メートル先の実物大の人型標的に対して、急所をただの一発で撃ち抜く能力があげられる。

やはり狙撃だけではなく、高い斥候能力も求められるようだ。

狙撃手なら、835メートル先の目標にまっすぐライフルを向けたりはしない。目標の頭上、約4.5メートルの点を狙う。弾丸は急角度で落ちていき、なにも知らない犠牲者にななめ上から襲いかかることになると知っているからだ。

経験だけではなく、距離、角度、風速などをきっちり計算してから狙っているという。

「命令された」ミッション、つまり仲間うちの外側から与えられたミッションは、たいてい意味がないし役にたたない。「ここへ行って、そこでできることをやれ」って命令されても、できることもなきゃやることもないんだ。

IED*1を密かに設置しようとする人間を狙撃するケースが多いようで、
複数人のコメントに出てきた。もちろんそれも命令されたことではなく、自分たちで
検討した現場に早めに入ったからこそできるミッションなのかもしれない。

狙撃チームの標準的な手法というと、まずは隠れ場所を設置したい地域を決めて、そっちに行くパトロール隊にくっついていく。それで途中で分かれて目当ての場所にもぐり込み、一日か二日作戦を実行するって感じだった。そういう隠れ場所のひとつに、市内で一番背の高い建物があった。廃業して無人化している八階建てのもとホテルだ。中に入ると、だれも入ってこられないようにドアにチェーンと錠をかけ、ロビーの防衛のためにM18クレイモア指令起爆地雷を設置して、わたしたちが使っているあいだは一階と二階は完全立入禁止にしておく。

かなり具体的な内容であった。遠距離ばかりというわけではないから、気がついたら居場所が
ばれて襲撃されるというケースも多いのだろう。他にも窓際から撃つのではなくて、生活
している部屋を一部屋挟んで攻撃したり、洗濯物を隠れ蓑にという方が住宅地では自然だと
いうことであった。内容も充実しており、読み応えのある一冊だったように思う。


スナイパー---現代戦争の鍵を握る者たちスナイパー---現代戦争の鍵を握る者たち
ハンス ハルバーシュタット 安原 和見

河出書房新社 2011-06-18
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*1:即席爆発装置の略