吉原御免状

歴史小説を読むときは若干躊躇いが出てしまう。というのも作家により文体、読みやすさ、時代背景に
対する前提知識などがそれぞれ異なっているからだ。だからあまり読んだことのない作家には手を
出さないようにしている。反対に一度読んで大丈夫であった作家であれば安心して次を買える。
歴史小説に限った話ではないと言われれば確かにそうであるが、小説やノンフィクションに比べると
顕著なのである。


最初に読んだ著者の本は影武者徳川家康である。当時ジャンプにも連載されていたので知っている人も
多いのではないか。本作は著者が60歳を過ぎて初めて書いた小説である。

宮本武蔵に育てられた青年剣士・松永誠一郎は、師の遺言に従い江戸・吉原に赴く。だが、その地に着くや否や、八方からの夥しい殺気が彼を取り囲んだ。吉原には裏柳生の忍びの群れが跳梁していたのだ。彼らの狙う「神君御免状」とは何か。武蔵はなぜ彼を、この色里へ送ったのか。----吉原成立の秘話、徳川家康影武者説をも織り込んで縦横無尽に展開する、大型剣豪作家初の長編小説。

宮本武蔵に育てられたという前提にしているからといっても主人公は明らかに強すぎである。
ほどなくすると裏柳生が登場したり、道々のものが出てくるので最初の作品から同じような傾向で
あったことがわかる。極めつけは過去に遡って徳川家康影武者の真実が語られたりするのは
若干やりすぎな感もあった。

一方、南光坊天海の前半生は全く不明である。天海が歴史に登場するのは、初めて家康にあった時だ。この時、天海すでに六十五歳。だがそれ以後の活躍が凄まじい。忽ちのうちに家康の腹心となり、政僧金地院崇伝、儒者林羅山と共に、豊臣家壊滅の作戦を練り、指導している。

明智光秀南光坊天海説というのは知らなかったこともあるが、非常に興味深かった。ある程度根拠も
ある一方でそれに対する反論も色々とあってそれだけでしばらく楽しめそうな内容。確かに当時の65歳の
人が急に表舞台に出てきてフル活動できるのかと言われると普通に考えても難しそうである。
全般的に非常に読みやすかった。続編も買ってあるのでしばらく時間をあけて読むつもり。


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隆 慶一郎

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